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2016年4月17日日曜日

原色少年植物図鑑

幸いなことに、死なないように、飢えないように、怪我したりしないように、老人ホームは本当に至れり尽くせりだ。それでもそういう場所では、かつてひとかどの大人であったはずの個々の尊厳を含めて、衰えた老人に関心を向けて無駄な時間を割いてくれる人はいない。仕方ないことです。十分にありがたいのですから、それくらいのこと、高額なサービスには資金の足りないうちみたいな家庭(それでも恵まれていると思います)にとっては、そこまでは望めないです。 無能な娘は、色鮮やかな植物図鑑を開いて、庭にあったレンギョウの話、叔母が栽培に失敗して枯らしてしまったブドウの話、祖母が憧れていたワレモコウの話、四ツ谷駅近くの中央分離帯で捨てられた種が実っていたスイカの話、母が故郷から持って来て植えた「オンコの木」の話、おままごとに重宝したマユミの実の話、とりとめもなくページを指差して話す。父は数時間も笑いながら、自分でも懸命にページを繰ろうとして、植物図鑑に見入っていた。「これは、季節の順番になっているんだなあ」と、数十回も繰り返し驚いていた。 そうだよ、春に咲く花から掲載されているの。牧野富太郎の『原色少年植物図鑑』。おばあちゃんの牧野植物図鑑は大人用のだったけど、これは私が古本屋で買ったか、職場の資料整理で捨てられるものを貰ってきたか、そんなのだよ、確か。持って来てみたんだ。植物の名前がわからなくて困ってしまったら見ればいいかな、って。 ビワのページで、「私、近所の空家の枇杷の実をね、盗んで食べようと思ったんだけど、背が届かなくて残念なんだよね。ヒヨドリに全部食べられちゃうの悔しくってさ」と言ったら、いちばんウケた。笑いのツボがよくわからん。奥深いなー、認知症ライフ。 最後のページに父の名前を書いて、「いつでも見られるように置いておくよ」って言ったら、「いや、持っていきなさい」と勧められてしまった。そうだね、ありがとう。じゃあまた面白そうな本があったら、持ってくるからさ。


原色?

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