外側の箱は青と金のタイル貼り
内側の箱は黒漆に螺鈿細工でスミレの模様
箱から鹿のような角が生えていた形跡が残っているが
中には瀕死の蛤がただひとつ、塩水を吐いていた
中古車のバッテリーを間に合わせにつないでみると
タイルの位置がわずかに移動し
隙間から深い鍵穴が現れる
真鍮の鍵を持っている場合は、差し込めばよいのだが
仮にうまく適合した場合にも
淡い桃色した蛤の命を救うことは、もう間に合わないかもしれない
死んだ蛤では潮汁にも危ないし
いまさら波打ち際の砂をなつかしんだとしても
どこからかラッパの音でも聞こえてこないか
無理矢理にそれを合図にして
この箱は汽水域になっている変な河口の辺りに投げ捨ててしまおう
蛤の一族には申し訳ない
しかし一族のほとんどはバター焼きなどにもなって好評であるということで
とくに歴史の改竄には当たらないと
遠縁に当たるアンモナイトが許してくれたとか
それはまったくの嘘だとか、典拠も頼る意気地ないくせに
頼りなく適当な両論併記しておく
渋谷の冬空 |
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