ティーンエイジャーのころに、書きかけてうまく作れなかったお話がある。
今朝、目を覚ましたら、なんか思い出した。
片道何車線もある広い道路の中央分離帯には、緑地のうえに幾重にも雑草が繁って、空き缶や吸殻が投げ捨てられていたりするが、あの、騒々しい大河の中州のような場所で暮らすことにした男の子、オオイワタロウくんの話だ。
オオイくんは、一日じゅう、澱みなく流れる自動車の流れに向かって、ひとりで鮮やかな色の大きな旗を振っている。
小学六年生くらいの、男の子。たぶん、あまりおしゃべりではなくて、何となくにこにこ笑っているような子だ。
何をしたいのか、なぜ、そこにいるのか、わからない。
ただ、「ぼくはここで、暮らすことに決めたんだ」という。
「ねえ、そんなとこで、何やってんの?」
と問いかけた女の子がいたが、男の子は楽しそうに遊んでいて、全然聞いていなかった。
激しい車の往来の真ん中にある、小さな緑の島。
旗を振り回して笑っているオオイくんが、どのようにしてそこに辿り着いたのか、そこからどこに行こうとしているのか、十七歳だった私にはわからなかった。
だから、この話は、きちんと書き始められずに、結末も見つけられなかった話。
最近、交差点の地面に腰をおろして、人と車の流れをぼーっと見ている機会が時々あるせいか、自分の頭の中にあった脈絡のない景色を、何十年かぶりに思い出した。
どうやら、いまもオオイくんは、あの場所から大きな旗を振り続けているみたい。
errata(2011/11/29)
返信削除誤:オオイケンタロウ
正:オオイワタロウ
登場人物名の記憶違いでしたので、訂正しました。