@mikanshibano on Mastodon

Mastodon@mikanshibano on Mastodon

2011年11月20日日曜日

参列の皆様には、ご朗唱を

時々、自分の葬式で流してもらいたい曲を考えることがある。たぶん、若いお嬢さんが「自分の結婚式でアノ曲を掛けたいの」なんて夢みるのと似たような乙女のロマンで、単に自分の場合は、結婚式というのは今更あり得ないので、とりあえず葬式にしてみたというところか。
まあ、本来葬式なんて、死んだ本人の遺志と関係なく、生きている人間の都合に合わせてやればよいものだし、まして家族もなく子孫を残す予定もない自分には、葬式を開いてくれる人間がいるかどうかも疑わしいんだけど。
とりあえず、親より先に死んでしまうと、何の信仰心もないながら代々の惰性で神主を呼ばれてしまったりしそうなので、さすがにそれはちょっと困るから、長生きしなくちゃと思っています。

ある友人は、「聖者の行進」を歌ってほしいけど、ちゃんとした人間として生きたことが認められないと葬式で歌ってもらえない曲だから、がんばらないとなあ、と言っていた(彼女の話では、そういうカルチャーがアフロ・アメリカンのコミュニティにはあるんだとか。私自身は未確認)。ちなみにカート・ヴォネガットのお葬式では、「I’ll fly away」「Down by the riverside」「Amazing glace」の3曲が合唱されたそうです。

で、自分の場合だが、まずは「We’re in the same boat, brother」という曲をお願いしたいと思っています。偲んでもらうほどの故人の遺徳もなさそうなので、ちょっと押し付けがましい辞世の曲にしてみました。歌詞の内容は、大体こんな感じ。
――ある日神様が下界を見ると、海も広々していることだし、船を造ろうと考えた。黒い目、茶色の目、青い目の混成クルーの人間たちに、ひとつ舵取りを任せてみよう、と。そんなわけで俺もお前もひとつ空の下、ひとつの世界に生きているというわけ。同じ船の上だよ、兄弟。こちらを揺すればあちらが揺れる、同じ船の上にいるんだからね、兄弟。ヨナみたいな目に遭いたくなけりゃ、しっかり舵取りしないとな――
結局その後、この船はあちこちの暗礁に乗り上げて、ボイラーは火を噴くは竜骨は折れるは、大変な目に遭うんだけど、それでも「俺たち同じ船の上にいるんだよ、兄弟」と歌うわけです。

私が持っているLeadbellyのこの曲は、1948年に録音された『Last Sessions』というSmithsonian Falkways4枚組CDに入っている。歌詞にはそのころの時世を反映した世界の紛争地の地名なんかも入っているが、どういうバックグラウンドで作られた歌なのか、詳しいことはわからない。
もともと古いブルースを好んで聴いていた趣味もなく、この歌を見つけたのは偶然だった。たまたま聴いていたLittle Axeの『Champagne & Grits』に「All in the same boat」という明るく開き直った感じの気持ちいい曲があって、細かい聞き取りができないなりに印象に残ったのが、繰り返される「We’re in the same boat, brother」というフレーズ。どうやらこのフレーズは本歌があるらしいということで、諸々検索するうちに、Leadbellyの古い歌に辿り着いたというわけ。

人類はみな兄弟とか、兄弟はみな人類とか、あんまり単純なことを言われても胡散臭く思ってしまうけど、同じ船に乗ってるんだから、誰かを出し抜くつもりで悪さをしたら、船は沈むだけだぜ、っていう語りは何だか気に入った。説教じみた響きではなく、あっけらかんとした、明るい声もとてもいい。
数年前からiPodに入れっぱなしで流しているこの曲だけど、こんな古い歌に歌われた風景が、このごろではますます切実に響く。この歌に送られながら、朗らかにこの世にお別れできるように生きていけるか、これから。それは自分に試されることでしょう。

昨夜、OWSの話を聞いて一夜明けて。
オレンジ色の雨粒の下で夢みた世界を思いながら、葬式まではまだ時間がありそうだし、迷走する船の操舵法を自力で探すしかないみたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿