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2012年10月12日金曜日

景色


大人になること、よくわからないから、当てずっぽうの想像をしながら、こんな曲を聴いてた。15歳で家を出て、遠くの学校の寮で暮らしながら、私。


  
構図と色彩構成がへたくそな18歳は、結局絵を描き続ける根性もなく、中途半端な大学生になった。ある日夜空を見上げたら、鈍色の厚い雲をぼうっと照らして、天使が飛び回っていた。輪郭のおぼろな、発光して輝く、ぐるぐると回る、いつまでも。
自分の頭が変になったのか、それとも、ついに世界の終わりを告げるラッパとやらが吹き鳴らされるのか。
ぽかんと口を開けて空を見ていた。
どんな経緯か忘れたが、派手好きなパチンコ屋さんが設置した、サーチライトの客寄せだったことを、後に知る。
低く垂れ込めた雲に不吉な天使を舞わせたのは、つまり、ヨハネの幻視ではなく、下世話な町田のパチンコ屋さんだったというオチです。

そんで、つい先週のこと。

物騒な遺伝子組み換え実験圃場があるというので、こっそり見に行くツアーに参加した。事前の知識も大してなかったが、15歳まで暮らした街のごく近所にあるというから、twitterでのお誘いを知って、見に行ってみたくなった。
町外れのバス亭から、畑や田んぼの続く町並みをひたすら歩く。
田舎の空は広い。遠くから雨が近づいてくるのがわかる。

細い道が抜けていく集落には、どの家にも広い庭があって、立派な(なんの種類かもわからないような雑多な)雑種の犬が長い鎖につながれている。よそ者のわれわれに、わんわんと、力いっぱい吠え立てるのが健気でつい、うれしくなって笑ってしまった。
路地で遊ぶ子どもたちと一緒に駆け回っている犬。田んぼのトラクターに付いて歩く大きな白い鷺。コンクリート補強のない用水路では、雑草がはびこる。季節がよければ、きっとミゾソバやニワゼキショウが見られそうだ。
子どものころには近所にあって、いつの間にか消えてしまった景色。

実験圃場は、ガードマンに守られて高いフェンスの中にあるわけでもなく、自家用の小さな畑をめぐらせた農家にあっけらかんと隣接していた。TPPの脅威の最前線、諸々の騒動の火種のはずの施設は、たしかにネットに覆われて警備会社のシールなんかも貼られていたものの、ここいらのガキならいくらでも潜り込んで悪さができそうな、凡庸な日常のなかにひっそりと紛れていた。
「花粉の飛散とかの実害は、大丈夫なんですか」と私。
「いちおう、穂が付く前に刈り取っているみたい」と案内のかた。
GMは行っていないが同じ企業の敷地だという田んぼの畦に近づいたら、踏み出した足元から蛙がぴょこんと跳ねて、田に残る水に飛び込んだ。
「このお米は、とりあえず、なかなかおいしいそうですよ」と皮肉な解説を伺う。

何が起きているのか、企業は何をしたいのか。
たぶん、ここに住む、だれも知らないんだろう。
私にもわからなかった。

「てんしがそらをまう
 あくまがてをふるよ
 ごらんすてきだよ けしき」

バスで市街地まで戻って、視察団一同、実家の近所で酒を飲んだ。初対面の博識の人たちと、たまたまこんな景色のなかで育った私と。未来を憂う言葉と、酔いの回りの速い純米酒。

結局、深酒になって、またメガネを失くした。
去年から3個目の紛失で、もう替えがないや。

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