ひよどりが頻りに桜の花を散らすのは
遠い昔に私たちの遠縁にあたる人たちが
きっと祝ったに違いない祭のようだ
幾人もの訃報を聞く三月が過ぎて
突然に薄黄緑にもろもろの枝が
芽吹き始めるこの週に
晴れた昼間を得て
上着を一枚脱ぎ
気の早い裸足に革のサンダルを突っかける
赤い自転車で用もないのに
川べりの道を桜の木の下を
去年の春を何ひとつ思い出せないこと
その傷の正体はわからないが
それでも
ひよどりの騒々しい凱歌が
春がまためぐり来ることの正しさを告げている
泣いている人すべて
泣かせてしまった人すべて
散る花の祝福のなかで
いずこか歩む道の定まりますよう
きわめて虫のよい祈りを唱えながら
後ろ姿に手を振る
不安定に背伸びするサドルの上
羽根や翼を持たない者は
せめて懸命に手を振っている
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