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2012年2月2日木曜日

ベイクドポテトとサワークリーム

部活の練習が2時に終わるというカナと落ち合う前に、先に待ち合わせたちーちゃんとパート3の地下をのぞいた。コムサが見たいっていう彼女に付き合ってパート1にも寄って、私はいつものようにコムサの悪口。そんでギャルソンにも付き合わせて、ほらね、こっちのほうがいいでしょ、って得意がるんだけど、見るだけで買わない。そのあと、スペイン坂のAesopでポストカードを買って、大中で私はバレッタを、ちーちゃんはルームシューズを買った。カナの学校があるほうへ向かう。

「本当はね、スウェンセンズで大きなパフェが食べたかったよねー。」
3人ともやっぱりそこまで贅沢はできないから、結局ウェンディーズのフロスティで我慢することになった。高等部に転校したカナが、ここは近場の常連ということで、まずはサラダバーの極意を教えてくれた。
「まず、トレイにナプキンを敷く。こぼれてもいいように、ってこと。そしたら次、お皿の縁にトマトを立てかけて、壁を作るわけ。結果的にお皿の容積が増えるでしょ。そしたら、いきなりレタスは入れない。コーンとか、シュレッドチーズとか、ブロッコリーとか、重みのあるモノが先ね……アルファルファをその上にして、一回ここで、ドレッシングかけとく。最後がレタスね。ふわっと載せて、山にする。軽いから意外と落ちないのよね。これが攻略法。」
カナの指南どおりに、山盛りのサラダを完成させてそーっと運ぶ。ベイクドポテトも外せないので、私はサワークリームにした。カナとちーちゃんはプレーンだ。
「ウェンディーズってさ、結局あんまりハンバーガー食べたことないよね。サイドメニューのほうがおいしいんだもん。」
「言えてる。ポテト超おいしいよねー。」

日曜の午後のウェンディーズには、なぜかバレエ教室帰りの小学生が多い。姿勢がいいのと、きゅっと丸めたシニョンの髪型でわかるんだ。
「いいなあ。あたし、いつか娘とかできたら、絶対バレエ習わせたい。かっこいいよね。」
「え、意外。あんたのイメージに合わないよー。」
「まあ、そうか。まあなぁ。でも、なんかいいじゃん。」
視界に入るとウザったいカップルとかは無視しつつ、私たちのとりとめのないおしゃべりはあちこちに飛ぶ。彼とはどうなってるのかとか、最近読んだ本のこととか、それぞれの学校の友だちのこととか。
「煙草吸っていーい?」
「え、煙草なんて吸うようになったのお?」
「うん。これ、ヴァージニア。こないだ、マサミさんのお友だちにもらって、おいしかったの。薄荷の。いいよお、これ。」
「ふーん。そういや高校で吸ってなかったほうがおかしいか、あれだけ酒は飲むのにね。」
「あはは。」

ふと、窓の外から、なにやら騒がしい音が聞こえてくる。
「なに?」
「なんかの宣伝? ドラムの音だね……」
贋物のステンドグラスの窓から下の通りをのぞくと、大きな旗を持った人やドラムのマーチングバンドを先頭にした大集団が、延々と行進していく。
「でっかい旗。脱原発って書いてあるよ。」
「プラカードとか、持ってる。これ、デモなのかな?」
「リズムかっこいいかも。なんかサンバぽい。」
「ちーちゃん、あのくらい叩けるんじゃない?」
「うーん。まあね。マーチングってうちら、やってなかったから、微妙かもしんないけど。」
「ていうか、何? これ。」
「原発やめろってことじゃないのお。」
「チェルノブイリ? 怖かったよねー。」
「怖かったけど、原発いやなら、電気使わなきゃいいじゃん。自給自足の暮らしに戻ればいいじゃん。便利な暮らしを続けたいくせに、原発いやだなんて、勝手じゃん?」
「そうだよね。でも、怖いよね、放射能。」
「うん、核は怖い。でも、こんなデモとかやっても、現実になにかが変わるのかなあ。」
「よくわかんない。この人たちにとっては、切実なんだろうけどね……」
ベビーカーを押したお母さんたちが歩いている。パンクスはまあ、ロックの精神からして反核に決まっているんだろう。そういえば最近じゃ清志郎もなぜか今さら、反核とか言い出したみたいだし。
私は、どうなんだろう。守りたい人もいない、つながりたい社会もない私に、なにかを「嫌だ」って言えるほどの元気はあるのかしら。たぶんそれよりも、そういう直接的な主張よりも、きっと私は、詩を書くほうがいい。ある思想を伝達するための言葉ではなく、読み手の側がいかようにでも解釈できる、私個人の感情を超えるような言葉のほうが。そうだ、きっと、そのほうがいい。

19歳の私は、青学の近所にあったウェンディーズの窓からTwitterデモを見ながら、そんなことを考えていた。43歳の自分が、その隊列の中にいたことを、冷たい風のなかで不器用に手製の旗を振り回していたことを、19歳の私は知らない。


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